クンバカルナの戦死

前回のワヤン・クリットバリ島影絵芝居の続きです。

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今回の演目は「クンバカルナの戦死」
9世紀頃ジャワ島に伝えられた古代インド叙事詩「ラーマーヤナ」の中の一節。

<物語背景>
アヨディア国ダラサタ王の長男ラーマ王子は、王位継承の問題から国を出て、その妻のシータ妃と弟ラクスマナは森での生活を余儀なくされています。

ランカ国の王ラワナは、シータ妃の美貌に心奪われ、羅刹王ラワナは策を巡らしシータ妃を誘拐してしまいます。
ラーマ王子たちは森に住む多くの猿たちを味方につけ、ランカ国へ立ち向かいます。シータ妃の返還を要求しますが、羅刹王ラワナに拒否されとうとう戦争が始まってしまいます。

お話はここから始まります。
まず通訳役の悪玉の家臣、デレムとサングッド兄弟が、羅刹王ラワ側の戦いの状況を説明し、もう一方の善玉の家臣トゥアレンとムルダ親子がラーマ王子側の心理と状況を観客に通訳します。
この辺で面白いのが、お互いの家臣たちは、共通して誰がいけないかも当然わかっています。でも戦争は始まってしまったので、始まってしまった以上、それはなかなか止められないのも知っています。その事を親子の関係、兄弟の関係という中の会話を通して「この不条理な戦争」「人間のおろかさ」いうものを面白可笑しく説明しながら、そして観客といっしょに考えながら、お話をすすめていきます。

クンバカルナというのは、悪玉で羅刹王ラワナの弟武将の名前です。戦争がラーマ王子側の猿軍のほうが優位になってきたので、羅刹王ラワナが援軍するようを弟クンバカルナに要請します。しかし彼は兄の行動を非難し、眠り続けていましたが、無理やり起こされてしまいます。彼は兄のところへ行き、シーラ妃をラーマ王子に返還するよう兄に説得しますが、兄は怒っていう事をききません。弟クンバカルナは仕方なく戦場に赴きます。ただ武将という義務を全うするために・・・。

そして、猿軍とクンバカルナとの激突です。
クンバカルナは勇猛な武将で、猿たちをどんどんやっつけ、そして猿王スグリワとの対決。
スグリワも重傷をおうが、神猿ハノマンの力によって復活し、クンバカルナの鼻をかじりとります。

それでもクンバカルナの前進は止まらず、ラーマ王子と弟ラスクマナは強力な弓矢を携え出陣します。
クンバカルナは二人の矢に射抜かれ、四肢を失いますが、それでも彼は大地を転がり前進をやめようとしません。善玉悪玉のそれぞれの家臣である親子や兄弟は、その戦いから、ラーマ王子たちがクンバカルナにトドメをさすまではやっていないことを知り、またクンバカルナもただ武将の義務を全うするためだけに戦っているのを知ります。悪役側なのに、このクンバカルナがとても勇敢でかっこいい存在に見えてきました。
それでも戦争は終われないのです。私たち観客も結末はもう見えています。
たくさんの人を犠牲にして、勝っても負けてもどちらにしてもお互いに悲しみだけが残り、戦争は悲しいことなのだと通訳たちは観客に話します。

そして、クライマックス。最後の矢が胸に突き刺さり、クンバカルナは壮絶な死をとげます。
神々は彼の死を慎み、その魂は静かに天界へと導きました。
というところでお話はおわりです。

人道や人生の教訓、世の中の道理がワヤン・クリットの中にぎっしり詰まっています。
ハリウッド的な敵は必ず死ぬとか、ハッピーエンドはない。
人間とは可笑しくおろかな動物であると、悟らせてくれています。
そんな道理を影絵芝居を通して説明するのも、人形遣いダヤンの演出技術なんでしょうね~。すごーい。
日本のお話でいうと”忠臣蔵”をみてるみたいな感じですね。

そんな事にもとても感動し、とても面白かった影絵芝居でした。


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